真っ白いシーツに沈む肢体。

投げ出された指先は柔らかい。
恭順な態度とは裏腹に、その瞳は全てを拒絶するかのように硬く閉ざされていた。


ワールドユース大会記念祝賀会で声をかけた相手。
飲みなおさないかと言う提案にあっさり乗って部屋まで付いてきた。
ソファーで向かい合って座り、それぞれ手酌で好きに飲む。
寛いだ様子でネクタイを緩めて。

どこでスイッチが入ってしまったのかは分からない。
ただ、最初からこれが目的だったわけではないことは確かだ。

「センセー?」

その細い手首を掴み、引きずるように寝室に連れ込んでベッドの上に放り投げる。
どれだけの暴言が耳に飛び込んできたのか。
身を起こす前に上にのしかかりシーツに手首を縫いつけた。
「初めてか?」
試合中とは違う、蔑みを帯びた強い視線が突き刺さる。
質量すら感じるようなそれは、クリフォードのうちに湧き上がる衝動の抑止にはならなかった。

フォーマルなシャツから覗くバター色の肌は、ゆっくりと舌を這わせれば体温でぬるりと溶けていくように馴染んだ。ピアスを揺らしながら皮膚の薄い耳の先まで舐めれば、ハチミツ色の柔らかな髪がふわりと波打つ。
少し上体を起こして改めて見下ろせば、閉ざされた瞳がそっと開いた。

「…手」
「なんだ」
「逃げないから、放せ」
震える唇から零れたのは罵倒でも捨て台詞でもなかった。
そもそもこの体格差で上に乗ってしまえばヒル魔が逃げ出すことはできない。
あえて両手を掴んでいるのは抵抗されると面倒だからだった。
だが、この様子ではきっとヒル魔は大人しくしているだろう。
掴んでいた手を開くと、その手首にはくっきりとした跡が付いていた。
痣になるほどではないが、少しの時間は取れない。
ヒル魔は一度そこに視線をやってからすぐにぱたりと瞳を閉じて力を抜いた。

獲物を仕留めてしまえば後はゆっくりと味わうだけだ。
クリフォードは緩く開いた唇に優しく口付けた。
深く濃密に絡みあうほどに彼は苦しげに眉をひそめる。
唇を離せばヒル魔は短く荒い呼吸を繰り返した。
息継ぎさえロクにできないような、初心な様はますますと欲望を煽り立てる。
細い首筋に舌を這わせながらシャツを脱がせた。
力は入っていないが彼の肌はどこも張り詰めて、まだ綻ぶ気配さえ見せない未成熟な蕾の様だった。 少しでも乱暴に扱えば、たちまち傷ついて咲く事もできずに枯れ落ちてしまうような危うさが漂っている。
唇を落とししとやかな肌を啄む。
どこもかしこも甘く舌先に馴染む極上の肌。
顔を背けて身を委ねる彼のきめ細かな肌は真珠のように淡く輝いている。
投げ出された彼のほっそりとした手を取って、つるりとした爪先にまでじっくりと舌を這わせて味わった。

硬い表情のまま目を閉じる彼の頬に落ちる金色の髪を指先でそっと払いのけた。
その指先が頬に僅か触れたのか、彼はビクリと肩を揺らして身をすくめた。
先ほどまで息を呑む程度でほぼ無反応だった彼のその反応が可愛くて、もう一度指先で頬をなぞる。
指先に熱を感じながらそろそろと顎を辿り首筋を下った。
彼は触れていなければ気が付かないほど小さな身じろぎをして、僅かに熱を帯びた息を吐きだした。

「サニー、」
彼からの返事はない。
変わらずに瞳を閉ざし拒絶の意思を纏って身を投げ出している。
けれども指先で指の腹で手の平で、そっと肌をなぞれば今度こそ耐え切れないようにその身をしならせた。
柔らかで、しなやかで、伝わる震えと熱が何よりも心地いい。
触れれば触れるほど、指先はこの肌が甘く濃密に蕩ける極上な生地だと伝えてくる。
彼は熱を持て余すかのように小さく息をついて、きつくシーツを握り締め逃げ出したくなる本能に耐えているようだった。その肌は体温が上がって美しい薄紅色に染まっている。

触れられてもいないのに熱を帯びて充血した紅い胸の飾りを掠めれば、彼は予想通り大きく肩を震わせた。そのまま指先でこりこりと揉みしだけば、彼はいよいよ切なげに背をしならせる。
息を飲んで耐えようとするから耐え切れなくなるまでとしつこく責めたてれば、呼吸を乱した彼の唇から小さな嬌声が零れた。
彼は濡れて重そうな睫毛をそっと震わせ瞳を開く。
困惑したような様子だった。
荒い息を吐いて閉じることも出来なくなった唇から紅く薄い舌がちらちらと覗いている。
誘われるまま口付けて指先を下ろした。

「…はっ、…ぁ」
唇が触れるか触れないかの位置で浅く舌を絡めているので、ヒル魔は先程のように声を殺すこともできず、嬲る指先の動きに翻弄されて腰を震わせていた。
いくら心で拒絶していても、直接的な刺激に耐え切れずとろとろと透明な快楽を滴らせる。
ずくずくと痺れるような性感が背骨を伝って上り詰めてくる感触に怯えて思わずクリフォードの腕を掴んだ。
気が付いたクリフォードは唇を離した。だが特に咎めるわけでもない。
もう片方の手でヒル魔の柔らかな髪を撫でてやると、苦しげな息の下、ヒル魔がそっと目を開けて見上げてきた。
熱に浮かされ潤んだ瞳がクリフォードの中の雄を無性に煽り立てる。
涙が浮かぶ瞳に口付けて、クリフォードは身を起こしヒル魔の脚を掴んで更に開かせた。
晒された羞恥にヒル魔の身体が打ち震える。


ヒル魔にはクリフォードが快楽を与えながら抱くのが理解できなかった。
さっさと突っ込んで彼が何度かイって満足したら解放されると思っていた。
しかし彼はヒル魔の快楽ばかりを煽りたて、今も彼の大きな手の平で温められたローションがゆっくりと体内に侵入してくる。
痛みのない性交に戸惑いを覚えてヒル魔は目を閉じ顔を背けた。

「…ひっ」
弄るような指の動きに思わず大きく身を震わせて歯を食いしばる。
彼の目的は分かるがそのための手段が分からなくて、つまりは何をされるか分からない。
だからどうしても彼の指の動きに過剰に反応してしまう。
それでも彼の片手が髪を優しく宥めるように撫でるのでヒル魔は力を抜いた。
優しく体内を暴かれて、ジンジンと疼くような熱が広がってくる。
困惑ばかりだった声に、潤むような甘さが混ざってくる。
体内がねだるようにひくひくと蠢く。
「ああっ」
指が増やされて、その途端下半身から首筋までぞわりと総毛だった。
一気に汗ばんだ背中がシーツから浮き上がる。
「…は、あっ」
いよいよ感じたことのないほどの快楽に襲われてヒル魔は思わず首を振った。熱に煽られ潤んだ瞳から涙が転がり落ちる。美しく身をしならせ思考を焼くような性感にただ翻弄されるしかなかった。

ようやく体内からクリフォードの指が引き抜かれたとき、すでにヒル魔は荒い息をつき溺れかかっていた。その様子を見下ろしながらクリフォードは自らのシャツに手をかける。
ベッドの下にすべての衣服を落とすと、ゆっくりとヒル魔に覆いかぶさった。
彼の腕を取って肩に抱きつかせ、そのしなやかな痩身を腕の中に抱き込めば、彼は触れる肌の熱すら快楽なのか小さな身体中をひくつかせていた。
「あぅ…」
腰に腕を回し肌を擦り合わせるように抱き締めれば上ずった甘い声が零れ、すりすりと脚を絡めてくる。
与えられた快楽を享受する様子に満足して上気したヒル魔の頬に口付けを落としながら、先ほど柔らかく蕩かした彼の秘孔に自身を宛がった。
ゆっくりと熱く潤んだ彼の体内を侵食する。
「や!やだぁ、ああっ!」
異様な感触に思わず身を強張らせても、たっぷりと時間をかけてほぐされたそこは簡単に雄の侵入を許してしまう。容赦なく奥まで犯されてその感触になす術もなく身悶えた。
しばらくはぴくぴくと痙攣し荒い呼吸を繰り返す彼の身体を抱き締めて落ち着くのを待っていた。
彼の身体はどこも、触れ合ったどこもかしこも甘く柔らかかった。
そうして抱き締めたまま、ゆっくりと腰を動かす。
「ひ、やぁ…ぬいて、ぬいて」
過ぎた快楽が怖いのか、いつも聡明さを湛える切れ長の瞳はとっくに蕩けて潤んでいるというのに必死に訴えてくる。ぎゅうと強く抱きついてクリフォードの首筋に顔を埋め、いやいやするように顔を振った。
勝気な彼の、その仕草だけで抑えきれないほど体が疼く。
クリフォードは身を起こすとヒル魔の両手をシーツに縫い付けて激しく腰を動かした。
彼は信じられないほど甘く堕ちた声で許しを願い、ますますと支配欲を煽り立てる。

そうして彼を最初の絶頂に導いたとき、触れあう彼の肌がまるで花のようにふわりと咲き綻んだ感触が、興奮の最中ひどく心を満たした。


夜が更けるのを待たず、ヒル魔は意識を手放した。
もともと疲労が溜まっていたのもあるのかもしれない。
際限なく与えられる異常な快楽についていけなかったのかもしれない。
ぐったりとシーツに身を投げだす彼の肢体を清めた後、使ってない方のベッドに移してからクリフォードもシャワーを浴びて失神から睡眠に切り替わったヒル魔の小さな身体を腕に抱いて目を閉じた。

明け方頃、目を覚ましたヒル魔が腕の中を抜け出したことに気がついたが、彼が衣服を身に着け終わるまで何も言わなかった。
準備が終わったらしいヒル魔を見てクリフォードはベッドの上に身を起こす。
「送ってやるよ」
「イラネ」
コートのポケットからガムを取り出して口に放りこんだヒル魔はすぐに風船をぷくりと膨らませた。
その彼の手を取ってベッドの上に座らせると後ろから腰に手を回して抱き込む。
「つれないなサニー、初めてなのに気持ちよくしてやっただろ」
ヒル魔は回された腕を面倒くさそうに振り払って立ち上がった。
「3人目」
「何」

「センセーで3人目だよ、俺を無理やりヤった物好きは。確かにイかせた奴は初めてかもな」


そうして彼はもう二度と、振り返ることもなく足早に部屋を後にした。



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